
[ 役 職 ]
東北ブロック
副ブロック長
[ 名 前 ]
大須賀 豊 |
Vol.006 「歌舞伎を楽しむ」
私は歌舞伎の「大向う」をしております。「大向う」とは実際の舞台で役者の動きやセリフに合わせ、“ここぞ”という場面で「成田屋!」などと掛け声を掛けることを言い、舞台の役者から見て一番向うの三階席の奥から声がかかるので「大向う」と呼ばれます。
本来、観客どなたでも掛けて良いものですが日本の古典芸能には「間」というものがあり、この「間」に合わせて舞台を盛り上げるように掛けるのは難しく専門化しています。
私は歌舞伎座公認の大向うと言う立場からNHK文化センター初め各所で歌舞伎講座の講師を勤めさせて頂き、芝居の楽しさや魅力を伝えています。
歌舞伎には沢山の面白さや魅力があり、芝居・役者・衣裳・邦楽など様々な角度から楽しめます。この「玉手箱」に一度足を踏み入れますと、その奥深さに嵌って行きます。
歌舞伎の楽しみ方の一つに「役者を見る楽しみ」があります。
本年、十二月風物詩としても有名な京都南座の顔見世興業で「坂田 藤十郎」が喜寿の記念に「娘道成寺」を踊ります。「娘道成寺」は何度も衣裳を変えて正味一時間踊り続ける歌舞伎女形舞踊の代表曲、難役です。その大曲に七十八歳の坂田藤十郎丈が挑みます。
藤十郎丈は一昨年、名前が途絶えていた江戸元禄時代の上方の名優「坂田藤十郎」の名跡を復活させました。これは、京都大阪の歌舞伎を盛り上げたいという「志」からの襲名でした。この襲名は歌舞伎界でも異例で、相撲に例えると今の横綱が強いから江戸時代の名横綱「谷風」の名前を襲名するようなとんでもないものです。しかし藤十郎丈の志があったればこそ皆が認め、襲名にいたりました。
私は襲名の折、藤十郎丈に直接お話を伺ったことがあります。「ぼくは、ぼく個人が藤十郎を継いだとは思っていません。上方歌舞伎を隆盛にしたいと思う「志」が継いだと思っています。だからありがたい。そしてぼくはこの年齢まで疲れたことが無いのよ、好きなことを仕事にしているから、これからどんどん新しいことをやりたい。」目を輝かせて話して下さいました。そこにはとても七十歳過ぎには見えない青年のように若々しい役者がいました。
私も京都南座での若々しく美しい、新しい志の道成寺を楽しみに「山城屋!」と大向うに伺います。皆様も是非お気軽に足を運んでみてください。
「歌舞伎は、か・べ・す」と言う言葉があります。菓子の「か」弁当の「べ」すしの「す」です。つまり芝居は見るだけではなく、食事も買い物もお茶もおしゃれも楽しむと言う意味です。江戸時代から四百年そんな楽しみが続いているのです。
鑑賞しようなどと肩に力を入れてみるのではなく、一日ゆるゆると楽しみながら見物・物見遊山してください。そして「志」を持って毎日真剣に芸の道の励む役者の生の芸に触れてみてください。
私も、歌舞伎を楽しみ魅力を伝えてゆく今をさらに発展させ日本の伝統文化を通して、日本人の文化意識向上・教育・しつけ・国際文化などの分野で貢献したいと思っています。
そして、伝統の中から何かを自分オリジナルの新しいものを創造してゆきたいと「志」をあたためています。 |