〜 2004年12月7日 西日本新聞 解説「潮流」より 〜
渡辺理事長寄稿コラムのご紹介!
「注意怠れない中国経済〜地方の暴走を止められない中央政府」
渡辺 利夫
拓殖大学 大學院 国際協力学研究科 委員長
ODA総合戦略会議議長代理
中国語に「条」と「塊」という言葉がある。「条」とは中央から地方(省)へと垂直に下りる行政命令系統であり、「塊」とは地方の中に横断的に広がる行政系統のことである。
とにかく誤解があって困るのだが、中国は中央集権的国家であり「条」のきわだって強い社会だというイメージがある。毛沢東時代の残像なのであろうか。事実はまったく逆である。
「塊」の力が強く、要するに中央の力が弱い「分散型社会」が伝統中国の特徴なのである。
毛沢東の時代が終わってケ小平の時代を迎えるや、中国は「条」を弱め塊」を強化する政策に転じた。
ケ小平による改革・開放政策を特徴づけるキーワードが「放権譲利」である。中央に集中していた権限を地方に放ち、それによって生まれる利もまた地方に譲ろうという政策で譲ろうという政策である改革・開放時代の中国の高成長とは、極度に中央集権的な体制下で鬱屈していた地方の活力が「放権譲利」により一挙にはなたれたことの結果なのである。
しかし、現在にいたってこれがどうにも厄介な問題として表面化してきた。中央権限の縮小、地方権限の拡大が二十数年間も続いてきた結果、「地方の暴走」を中央がコントロールできない事態となってしまったのである。
現在の中国を悩ませているのが強度の経済過熱をいかに冷ますかであるが、高度成長を求める地方の投資を中央が制御できないために、成果は容易に上がってこない。
今年四月に関係者の処分が決定された「江蘇鉄本鋼鉄有限公司」事件などは、「地方の暴走」を示す端的な事例である。土地使用権の上限を超える広大な土地入手を見せかけの分割申請によって入手し、この不正な土地入手と鉄工所建設のための資金を、地方政府の支持を受けた銀行の融資によって得たという事件である。
これほどあからさまなものであければ、類似のプロジェクトは多数存在する。「地方の暴走」を食い止めることが出来ない以上、現在の中国の加熱を冷ますことは難しい。
今年一月から九月までの中国の固定資産投資額において、中央プロジェクトは15%を占めるのみ、85%という圧倒的なシェアを地方プロジェクトが握っている。同期間の投資増加率をみると、中央プロジェクトは4.2ポイントとほぼコントロール下に入ったものの、地方プロジェクトは依然36ポイントという高水準を維持している。
銀行預金準備金や公定歩合の引き上げ、さらに銀行融資枠の引き締めなどの採用により、地方プロジェクトの投資増加率は漸減傾向にある。
この事実をもって中国の経済加熱はソフトランデイングに向かっているという見方が出始めているが、希望的観測であろう。
中央政府が過熱冷却に腐心していることは、事実である。とはいえ、経済を強力に引き締めるわけにもいかない。
都市・農村に合計で二億人を越える失業人口を抱え、就業の機会を求めて流動する人口が一億人を前後する中国においては、高成長による就業機会の確保は容易に譲ることの出来ないテーマであるからである。
加えて二〇〇八年に北京オリンピック、一〇年に上海・万国博覧会が控えている。過熱冷却が失業者を増加させて社会・政治不安を引き起こす事だけはなんとしても避けねばならない。
中国経済が落ち着くところはどこか、しばらく注視怠るべからずである。
国連支援交流協会 事務局